研究総覧
博物館歴史学
国立台湾歴史博物館は国内唯一の台湾歴史をテーマにした博物館です。したがって、台史博は、博物館の考え方と特色を備えた台湾史研究を確立することを願い、「台史博歴史学」の研究ブランドを立ち上げました。博物館の歴史研究者たちは、研究機関や学院に所属する研究者と違って、「博物館学芸員」として、企画研究、収蔵品研究、教育推進、資源活用、大衆との対話、社会参加などを含む社会参画や大衆への周知という責任を担っています。博物館歴史学研究の特色は、博物館というプラットフォームを通して、現代社会と対話やコミュニケーションを行い、さらに積極的な行動力と影響力を生み出すことで、博物館としての最大の効果を発揮することにあります。
主な研究計画
植民地近代性の再考
これまで台史博は、「人々の声に耳を傾ける:霧社事件から80年」、「激変一八九五:台湾乙未の役から120年」など数々の特別展を開催してきました。日本統治時代に発生した歴史的な重大事件について様々な角度から解釈を行う一方で、『⼄未之役中文史料』、『⼄未之役外文史料』(1)~(3)、『霧社事件日文史料翻譯』といった書籍も出版しています。このほか、日本統治時代の「新秩序の下での苦悩と夢」常設展コーナーも設置しています。大衆との対話を進め、現在の学界の話題への反省の意を込めて「植民地近代性の再考」という研究も展開しており、その研究成果は今後当館の展示に運用する予定です。関連テーマについても詳細に研究するために、50年間に及ぶ日本統治時代における変化についても見直し、日本統治時代初期における政治社会の変化について詳しく検討するほか、1920年代以降の植民地主義と反植民地主義といったテーマについても研究しています。
音声で受け継がれる台湾史
台史博は所蔵している古いレコードを基にして、多数の収蔵機関やコレクターからの協力を得て、データ収集・レコード購入・技術提携を行い、館内でレコードのデジタル化や音源ファイル保存のためのアップロードプロセスを構築しました。2015年には「台湾の音声、百年の物語」というホームページを立ち上げて運営を続け、2017年からは毎年「台湾の百年の音声を聴く」イベントを企画し、「音声で聴く台湾史シンポジウム」を開催。ボランティアを募って毎月「音楽を分かち合う会」を開いて、レコードデータの解読を行いながら、サウンドスケープを集める実験的な作業を行うなど活動範囲を広げています。現在取り組んでいる研究テーマは大きく次の4つに分けられます。1.音声に関する歴史的材料の収蔵、2.聴覚を中心とした台湾歴史研究の推進、3.聴覚的記憶の収集、4.音声で現代社会と文化に影響を与えたテーマ。
社会のニーズに応える博物館-現代収蔵と研究
博物館は、現代と向き合い自ら社会に関心を寄せ行動を起こし、「方法としての博物館」で社会における様々なテーマについて検討を行い、変化を引き起こす可能性を触発していく責任を担っています。当館では、2016年に中央研究院が収集した2014年の「318ひまわり学生運動」関係の物品を接収し、2019年に「迫力.破壊力:戦後台湾の社会運動特別展」を開催。その後も継続して精力的に社会運動関係の物品を収集しています。2016年2月6日に発生した「台湾南部地震」では、救済活動にも参加して、重大震災事件の記録と保存に努めました。これは人々のやるせない気持ちをなだめるもの、共通の社会的記憶の凝縮、一緒に前を向いて進んでいくモチベーションになりました。そして、2017年には、「地震帯上の共同体:歴史の中の日台震災」 国際展を開催したほか、2019-2020年新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中で猛威を振るう中、当館では「COVID-19防疫物品・写真収集計画」を実施。全国民が一丸となり、この感染症に対抗し、感染防止のために採った行動の保存に取り組んでいます。
「迫力.破壊力:戦後台湾の社会運動特別展」
「地震帯上の共同体:歴史の中の日台震災」 国際展
「COVID-19防疫物品・写真収集計画」
2020年、台史博で集めたCOVID-19防疫物品
2018年、「中高学習指導要領の一部改訂反対運動」(2015)の参加者が来館、抗議活動内容と関係物品について説明。
民間における動的な歴史の解釈と実践行動
この研究テーマは、民間の視点からの歴史解釈と実践に注目し、「歴史」が各方面の行動者によって活用される思考の源と行動規範に焦点が当てられています。さらに研究者にとっては、歴史学研究を生活哲学と行動実践の改造や啓発にいかに活用するかが課題となっています。当館で過去に企画した「海の四方から:近代台湾の移民物語特別展」、「地図は語る:地図から見る台湾史特別展」、「離人・離島特別展」などは、いずれも歴史と現代社会との対話に注目した内容となっています。現在企画中の2024年開催予定の東アジア港湾都市特別展(仮称)では、民間における動的な歴史の視点を通して、早期における東アジアの文化交流の歴史が、現代においても、継続的な解釈と実践によって、その影響と効果をいかに発揮しているかということに注目しています。
台湾を描く―地図と画像の中の台湾社会・イメージ・知識・出会い
地図や画像など非文字の視覚的な素材は、かつて様々な人々が台湾で出会い、コミュニケーションを図る過程において非常に重要な役割を果たしていました。このような素材は歴史をみる豊富な手がかりだけでなく、多様で複雑な台湾に対するイメージも表現されており、「1枚の地図や図像は千の言葉をも勝る」という言葉の通りです。台史博の収蔵品には大量の地図や画像が保存されており、『現存臺日画報復刻』、『経緯福爾摩沙-16-19世紀西方人絵製臺灣相関地図』などの出版物や、「地図は語る:地図から見る台湾史特別展」といった展示企画を通して、これら特色豊かな所蔵品がご覧いただけます。また、関連研究活動も継続することで、地図と画像から台湾史研究に関するもう一つのルートが開け、多様な視点、知識制作、視覚的文化といった歴史的な課題の研究にも大いに役立つと思われます。
台湾史に見るジェンダー
台史博は、関連特別展の開催により、「眷村」(外省人居住地区)、南洋の風物、新住民、戦後の社会運動特別展などについて研究を行い、様々な角度から台湾史における女性関連のテーマについて、常に注意の目を向けてきました。この原則に則り、様々な女子学生、各種労働者階級にいる女性、女性の移民者・移民労働者など異なるエスニック・グループのジェンダーというテーマについても、検討を重ねてきました。19世紀に遡ると、伝道活動により来台した女性宣教師の史料には、歴史的事件の裏に隠された女性の影が記録されていました。「女性のライフヒストリー」に焦点が当てられているだけでなく、応用方法についても積極的に記されていました。例えば、各団体はオーラルヒストリーによって、見落とされがちな女性の記憶を保存して、見捨てられた生きられた経験を再発見します。さらに博物館は、ジェンダー意識のある歴史や共有される記憶の可能性をいかに実践に結び付けていくかを改めて考えています。これまで蓄積してきた多様な史料・物品・映像を基にして、「台湾の女性ホームページ」をリニューアルしながら維持運用し、台湾のジェンダー研究や知識をより充実させ、文化的資源を開放し共有することで、社会におけるジェンダー平等の意識を向上させています。
『台湾の女人系列‧歴史篇』専門書
「台湾女性のライフヒストリー-方法と実例の検討」フォーラムを開催し、多数のオーラルヒストリー実践者が参加
台湾の水文化の中の流域と社会研究
気候変動が起こる中で人類が生き延びるために直面する困難と挑戦に対応して、「人と自然」をテーマに再考します。博物館は公的機関運営者という役割を担っているため、国の水利・農業用灌漑・文化財・研究センター・民間といった関係機関と連携して、水資源に関する協力チームを結成しました。これにより台湾に「水環境の変化を感じる」社会や環境に対して高い歴史意識を持つ社会が形成されることを願っています。2018年に開催した「誰が決めるー台湾の水文化」特別展は、曽文渓流域における人と自然の関係に対応したもので、2020~2023年にかけては嘉南大圳(農業用水施設)をテーマにして、雲林・嘉義・台南の水文化を取り巻く環境・歴史・工事・人文・文化財などへと広げていく計画です。台史博は歴史研究と物質研究を出発点として、水文化をテーマとしたプラットフォームを構築するコーディネーターとして、テーマごとに語られた内容によって、台湾の様々な水文化に関する知識ベースシステムを構築しています。
誰が決める―台湾の水文化特別展
竹造りの家茅を担いで渓流を渡る:台江の風土と自然特別展
近代台湾における社会生活と歴史の動きに関する研究
地域から生まれた知識と社会研究を通して、地域交流史の比較研究を行っています。史料收集と研究展開、行政管理の法務体制の変化、経済と社会との交流面、深層に蓄積した歴史と文化という4つの側面から、研究テーマを統合するにより、原理的な観点の分析を行っています。また、モノが語る物語をコンセプトとしたワークショップ、フィールドワーク、展示企画を通して、社会生活史に関するテーマに設定し、館内収蔵品の分野を越えた要素を組み合わせて、2012年の「台湾往来-館内所蔵品特別展」、2015年の「旧邦維新:19世紀の台湾社会特別展」、2016年の「独自の新しい風格:林朝英一族の人格と才気特別展」を次々と開催。モノの種類や機能からテーマを統合し、転化・派生させることで、台湾における社会生活の豊かさを表現しています。
台湾史に関する多様な研究資源の収集と普及
知識の提供は文書だけにとどまりません。デジタルテクノロジーの発展により知識サービスを提供する博物館にさらなる可能性が広がりました。伝統的な博物館の研究、収蔵、展示、教育といった資源をクラウドのデジタルステムにアップロードすることにより、今まで以上に多くの資源の提供ができるようになり、教育推進の礎にもなっています。台史博のサービス対象は、遠くから足を運んでくる来館者にとどまることなく、グローバル化によりつながったインターネットユーザーへと拡大しました。この先、当館は台湾の歴史資源ネットワークとプラットフォームを活用した「台湾史における多様な資源センター」に躍進することを目標として、利用者細分化経営計画を通して、台湾歴史を解釈し、台湾歴史研究と教育を普及させる使命を達成し、データを集積しながら、台湾歴史に関するデータベースを確立し、クラウドサービスを提供するデジタル博物館の夢を叶えていきます。