国立台湾歴史博物館は史料の収蔵と保存のみを目的とするのではなく、収集した史料の研究、出版による研究成果の発表を通じて、台湾史の研究を広め、深めることも重要な責務の一つとして取り組んでいます。当館は準備期より「台湾の外交関係」、「台湾における各エスニックグループの関係」、「台湾の近代化」の三大研究テーマを掲げて、これに沿って研究と展示計画を行ってきました。主な業務内容としては関連する学術書の出版とデータベース作成、専門ウェブサイトでの発表、シンポジウムやワークショップの開催などがあります。当館は歴史学を主軸とした学際的な研究と発表、シンポジウムを通じて歴史の認識、台湾研究に対する社会の力を高めることを目指しています。
海外の台湾史料の調査と編纂
当館は「台湾の対外関係」、「各エスニックグループの関係」についての研究を進めるために、海外の台湾に関する史料や文献の収集と整理を重点業務としています。これにより当館の特色を確立し、当館を海外の台湾関連資料の収集と出版における重要な拠点、リソースセンターにしたいと考えています。
当館は2002年より「海外台湾関連資料調査及び収藏計画」を開始しました。現在、外国語資料のコレクションには16世紀から19世紀にかけて西洋で出版された台湾に関する地図と古書資料を質量共に揃えています。私たちは今後も外国語の台湾関連資料の収集と収蔵を続け、海外での調査と収集の範囲を拡大し、長期的かつ計画的に当館の収蔵品を充実させていきます。
現時点での主な成果としては、19世紀末以降に西洋で出版された台湾に関する記録と研究専門書があります。これらの書籍は学者や宣教師、記者によって書かれたもので、当時の西洋人による台湾研究の成果と観察内容について知ることでき、20世紀以降の台湾史研究の足掛かりとなったものです。当館は現在、19世紀末から20世紀前半までの期間に世に出た西洋の台湾研究専門書の翻訳と出版を積極的に行っています。
パブリック ヒストリー史料の収集と促進
当館は「全ての台湾人のための博物館」として、展示業務と教育活動を進めるほか、パブリック ヒストリーの研究に特に力を注いでいます。台湾に暮らす人々の経験と生活を細かく観察し、これまでの歴史の記述と記録の中では見落とされ、忘れられてきた部分を伝えていきます。このほか、当館はさまざまな歴史的資料を収集し、一歩進んだ理解と解釈、そして多様な歴史のイメージの再現を試み、皆様にお見せしたいと考えています。
目前工作主題
台湾の女性
当館は台湾の女性に関する史料を積極的に収集し、歴史の中の女性が持つさまざまなイメージ、それぞれの時代における異なる姿の再現を試みています。女性たちの家庭から社会への進出、身体の束縛から解放について多様なテーマに沿ってその姿を描き出し、専門ウェブサイト「台湾の女性」では豊富な画像資料を使用して台湾に生きる女性の文化的特質を紹介しています。また当館は、収集・整理した台湾女性に関する音声・映像資料を用いて、企画展示や専門書出版への協力を行っています。さらに各種文物の評価過程の成果に対して、女性からオーラル・ヒストリー採集を行うなど各種テーマ別作業を実行しています。当館は、このような取り組みを通じて台湾女性に関する史料を豊富に揃え、女性学研究を進めるだけでなく、この成果が台湾の女性研究の基礎となり、台湾社会が男女同権の未来を生み出すことを願っています。
日記資料の解読
当館は日記資料の収蔵も続けています。2005年は范遠霖の「高雄飛行場日記」、2009年は陸東原一族の文物である陸季盈の日記、2013年は許天催(戦前の地主・街庄長)の日記、鄭書声(戦後初期の小学校長)の日記、鹿港街長を務めた陳懐澄の日記(1916~1932年分)などがコレクションに加わりました。これら台湾の各社会階層からの収蔵品を整理し発表することで、各分野の歴史研究の参考資料にしたいと考えています。
日記資料の初期的なデジタル化の後、当館は2011年より「陸季盈日記解読クラス」が始まりました。長期間にわたって博物館内外の学者と共に日記を精読し、関連するシンポジウムや学術論文の発表を行いました。現時点でもおおよその成果が出ており、台湾の農村における農業と社会教化運動の理解に大変役立っています。当館は引き続き各種日記の解読を行い、将来的には日記資料のデータベースを構築して一般の皆様の研究と学習に役立ていただく予定です。
録音技術は台湾で100年にわたって発展してきました。レコードとカセットテープの時代からデジタルの時代まで、台湾社会の政治・経済と文化の動向が記録された音声史料は、現代人が歴史と文化に触れるための最高の材料となっています。当館は、レコードのコレクションを充実させて整理するのと同時に、音声資料を所蔵する民間機関と積極的に協力して各種音声史料の収集・保存と整理に取り組んでいます。音声資料のカテゴリーは幅広く、ポップス、曲芸と演劇、政治・社会、文化、生活の5つの方面に及びます。デジタル化を経て整理されたレコードとカセットテープ音源は、当館の研究資源プラットフォームに収められ、一般の方々に公開されているだけでなく、各界の研究や活動の参考資料として提供されています。
歴史的地理情報の普及と応用
地理概念は歴史的知識の基礎です。当館はさまざまな地図資料を豊富に収蔵しており、17世紀から19世紀までの古地図や日本統治時代の地図を『経緯福爾摩沙』、『測量台湾』といった書籍にまとめて出版しています。またGIS(地理情報システム)を用いて地図資料の分析と展示を行っています。
さらに2013年からは歴史的地図の制作と出版計画がスタートしました。この計画では、台湾史のビジュアル化を進めて新たな歴史教育の基礎教材を作成し、関連資料によって当館のGISシステムをさらに充実させていきます。これにより研究の正確さが向上するだけでなく、地理情報から新しい歴史認識の方法が生み出されるでしょう。このような計画を通じて、当館は人々の地理・歴史教育の新拠点となることを目指します。
膨大な史料の編集と整理
『台湾史料集成』の編纂
叢書『台湾史料集成』は、国家の資源と民間の力の結晶です。本叢書の編纂は台湾の歴史と文化の記録を積極的に促進する基礎業務であり、また台湾の歴史を広めるために重要な史料の整理業務でもあります。明朝・清朝時代の政府の書類、地方誌の整理から着手し、当時の契約書、個人の文集、ノート、書簡などさまざまな公私文書を集めました。これまでに『明清台湾檔案彙編』5集120冊、『清代台湾関係諭旨檔案彙編』1集9冊、『清代台湾方志彙刊』3集34冊、『台湾総督府抄録檔案契約文書』3集35冊を出版しています。これら書籍の出版により、従来の台湾史料に欠けていた部分が補われました。本書は国家の重要な文化的資産であるだけでなく台湾史料の研究における大きな一歩でもあります。また台湾について学ぶ人々のために最もふさわしい、ありのままを語った歴史教材とも言えます。
日本統治時代の新聞
当館は重要な文献資料を保存するために、かつて台湾国内で見られた各方面の情報を整理し、毎年多くの史料を出版しています。現在は、入手可能な文物資料を探して購入するほか、関連機関との協力により現存する日本統治時代の新聞を整理し、復刻版の出版を試みています。日本統治時代の重要なメディアであり、また台南の歴史、文化、産物、人々と密接に関わっていた『台南新報』と『台湾日報』は復刻版が完成し出版されています。日本統治時代、台湾人によって設立・経営された唯一の新聞『台湾新民報』も、現存の資料を整理し、編集と発表をしていく予定です。当館はこれらのメディア史料の整理と研究を通じて、多元的な史料を提供します。また、失われた歴史の部分を整理して世に出すことで、台湾の研究に豊富な解釈を加えていくことを目指しています。
歴史的文物の調査、収蔵と研究
歴史文物の調査と収蔵
コレクションは博物館の基礎です。博物館で歴史を説明するために、文献資料以外では歴史的な文物が最も重要な史料であると言えます。台湾の歴史の経過を完全に説明するために、歴史的文物の調査と収集を重点業務として優先的に行わなければなりません。
博物館のコレクションを充実させるために、当館は計画的に毎年文物の調査と収集作業を進め、当館の収蔵趣旨に合った歴史的価値のある品々を収蔵しています。収蔵品はオランダ時代から近代に至るまでの各種資料で、図書、文献、日常生活用品、映像や音声資料などを含みます。特に台湾に暮らす民族の多様さ、対外関係、近代化の過程がわかる歴史的文物を中心に収集しています。
当館は海外に散在する台湾の文物や史料を購入、複製または寄贈を通じて積極的に入手し収蔵しています。現在、当館に収蔵されている大量の地図、外国語の台湾史史料、日本統治時代に関する文献と映像のほとんどは海外のコレクターが所有していたものです。歴史・文化の調査と文物の収蔵を通じて、各地に散在する文物を適切に保存・メンテナンスすることにより、当館は台湾の歴史的文物の宝庫として台湾史の真実の姿を再現しています。
歴史的文物の研究
歴史的文物の研究と収蔵は表裏一体です。文物の寄贈、購入、収蔵といった作業は、研究という基礎があってこそ効果的に行われ、効率の良い収集作業と良好な運営が維持できるのです。また文物の収蔵後も研究業務を進めて、より深く研究対象を理解し、研究の特色を確立しなければなりません。
当館の収蔵品の歴史的研究は、珍しい民芸品を鑑賞するような方法ではありませんし、また人類学的な研究とも異なります。私たちは文物を基礎とする史料コレクションと研究方法を率先して実行しています。そして特定の文物と歴史・文化、そして社会の脈絡との繋がりを研究し、過去の研究者が発見できなかった台湾史を明らかにすることを目指しています。
現在進めている陶磁器、領収証、地図、契約書、レコード、大衆向けの本、記念スタンプ、日記などの当館収蔵文物の研究は、物質文化研究の可能性と多元性を広げるものです。当館は、台湾の歴史的文物の調査、収蔵、整理を通じて物質文化の研究を発展させるため、各種シンポジウム、ワークショップ、読書会を開催しています。このような取り組みを通じて、台湾史の学術的対話に参加し、当館の研究方針の特色を形成していきたいと考えています。
学術論著の出版
当館は2010年に、学術誌『歴史台湾』を創刊しました。これは毎年5月と11月の年2回発行の学術雑誌で、博物館内外の専門家と学者に発表の場を提供しています。また2014年からは学術雑誌編集チームを編成して正式に原稿公開募集を開始し、毎期ごとに定められたテーマに沿って文章を集めています。現在、主に学術論文、史料・文物の翻訳紹介、書評、フォーラム、フィールドワークなど、台湾史と博物館学に関する専門論文を収録しており、専門的な学術雑誌の基準に基づいて原稿の募集、二重の匿名審査を行い、さらに専門的な編集作業を経て、本刊行物の学術的な品質を維持しています。
この他、台湾史研究を奨励するために、特別に当館収蔵品研究の成果を扱う長期的な「研究専門刊行誌」出版計画を打ち出しました。本計画の実施にあたって原稿を公開募集し、編集チームを設けて館内外の専門家と学者に編集委員を依頼しました。厳格で精度の高い編集作業を経た内容で画像と文章共に充実しており、現在すでに数冊の専門研究が出版されています。私たちは本誌出版を通じて台湾史の研究を推進し、当館の文物研究の知名度を高めたいと考えています。
シンポジウムとワークショップ
台湾史研究の気運を高め、国内外の学術グループとの交流を発展させるため、当館は準備期より積極的に外部と協力して台湾史や当館の研究趣旨と関連のある学術シンポジウムを共催・主催し、各機関と交流を図ってきました。
当館は海外史料の調査と研究、多元的なエスニックグループの関係、社会の近代化の3つの研究テーマに合わせてシンポジウムを開催しています。シンポジウムを通じて、台湾が西洋世界と接触した後の社会交流現象、そして博物館の「物」の研究方法と物質文化の研究について討論を続けています。また、台湾史研究の成果を蓄積し、博物館の実務作業について検討を行うだけでなく、所蔵文物研究の意義を深めていきたいと考えています。
今後も出版物、フォーラム、シンポジウムなどを通じて学術的対話と交流の場を作り、台湾史研究の意義を深めることを目指します。活動の主軸の一つは、台湾史と人文社会科学関連大学院の院生を文献資料とフィールドワークを結合した研究視野と能力を持つ台湾史研究者に育成することで、2007年より関連ワークショップの開催を続けています。長年行ってきたワークショップはすでに当館と若い院生たちの重要な交流の場となっています。台南市にある当館が土地と人々に最も近い研究方法であるフィールドワークを選んで、点の調査と線の追跡を行います。この方法によって、台南やエスニックグループ移動など多元的なエスニックグループ関係の議題が生まれました。このように当館は一歩一歩、地方の歴史研究の可能性を具体化しているのです。
研究資源プラットフォーム
デジタル時代において、図書管理も紙資料の収集や保存作業だけではなくなり、情報技術を用いた「知識管理」も直面しなければならない課題となりました。当館もホームページの設立、収蔵品と展示のデジタル化、社会連携まで、ネットワークとデジタルメディアを利用した教育と学習活動を行っており、研究資源のデータベース化は普遍的なものとなっています。2011年より当館は、これまで行ってきたさまざまな研究計画の整理を開始しました。「日本東京外国語大学台湾音像資料調査計画」、「李仙得『台湾記行』手稿出版計画」などの海外史料の調査のほか、専門ウェブサイト「台湾の女性」、「音声100年」などのパッブリク ヒストリー史料収集及び『台湾史料集成』、日本統治時代の新聞復刻出版などのプロジェクトを実施しています。当館は台湾の近代化、対外関係とエスニックグループ関係などのテーマに沿って「歴史フィールドに入るワークショップ」で調査した南台湾のフィールドワーク資料も組み入れ、統合型の研究計画データベースとオンラインのデジタルプラットフォームを構築し、さまざまな資料を提供していきたいと考えています。
台湾史マルチリソースセンター
知識の提供は書面のみにとどまりません。デジタル技術の発展により、知識を提供する博物館はさらなる可能性を得ました。従来の博物館はデジタル化し、研究、収蔵、展示、教育などの資源提供にインターネットを利用するようになり、さらに多くの情報を教育普及の基礎として皆様に利用していただけるようになりました。当館のサービスは博物館を訪れた人々だけではなく、世界のインターネットユーザーを対象としているのです。
将来当館は、台湾史関連資源のネットワークとプラットフォームである「台湾史マルチリソースセンター」となることを目標とし、利用者が運営計画に参加することによって台湾史の解釈を拡大していこうと考えています。当館は今後、台湾史の研究と教育を担うという使命を達成し、台湾史のデータベースを形成してインターネットを活用したクラウドデジタル博物館となることを目指します。