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「内海船主の宝:單桅手撐船(一本マストの手漕ぎ船)生活史」展

  • 開催日:2020-12-29
  • 終了日:2021-12-31

台湾における歴史上の船といえば、堂々と海を渡る大型船を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし遥か遠洋にではなく、私たちの身近な生活の中にも、実は数多くの船がありました。かつて台南と安平の水上に60年以上も漂いつづけたこの小さな船は、ついに国立台湾歴史博物館へと辿り着きました。

この展示では、当館が所蔵する「單桅手撐船」(Single-masted Punt:一本マストの手漕ぎ船)に注目し、残された手がかりから、豊富で複雑な船の物語(life of the boat)を読み解きます。そして、この土地から既に忘れられてしまった「人と水」(man-water)の密接な関係について振り返ります。

セクション1 偉大な航路、浅瀬の地域で:台湾浅水域船舶の15大事件

台湾は四方を海に囲まれ、渓流が多数存在します。海岸沿い(浅瀬、潟湖など)や内陸(河川、湖など)の浅水域で、人々は船を使った漁猟や輸送などの産業に従事していました。地域が異なれば、そこで使われた船の名前も、形も、機能も違います。共通する特徴としては、多くが平底の船で、大きさも積載量も比較的小さく、風力以外にも、櫂または水竿などによる人力を動力としていました。浅瀬で使われた各種の船は、台湾の人と水環境が長きにわたって共存してきた方法を反映しています。

セクション2 台南の水上を走る:手漕ぎ船と台南の浅水域

当館が所蔵する「單桅手撐船(一般マストの手漕ぎ船)」の最重要活動拠点は台南です。

台南はかつて「臺江内海(台南の内海)」、通称「内海仔」と呼ばれる大きな潟湖(ラグーン)に面していました。砂が多く水深が浅いという地理的環境に適応するため、人々は手漕ぎ船などの浅瀬用船舶を交通と輸送の主な手段にしていました。これによって数多くの船が湾内を頻繁に往来するようになります。当時の暮らしと産業を反映し、清の時代に台湾八景の一つ「安平晩渡」として謳われたこの風景は、人々にとって非常に印象深いものでした。当館所蔵の手漕ぎ船は、まさにこの時代、台南の人と水環境が共存していく過程を今に伝えています。

セクション3 船主の宝:安平林家の廻船事業

当館所蔵の「單桅手撐船(一本マストの手漕ぎ船)」は20世紀初頭、台南安平の林家で使われていた輸送船の一つです。林家の廻船事業は林老福氏が創業し、開業当初は日本三井物産株式会社から製塩所「安順塩場」へ塩の輸送を請負っていました。後に事業を継いだ息子の林天慶氏は、戦後まもなくして地域住民の各種生活用品の輸送業へと転向し、地元の人々から「阿慶伯仔」と呼ばれ親しまれます。1970年代になって林家の輸送事業は終わりを告げました。

かつて安平では数多くの手漕ぎ船が、台南の水上を縦横無尽に行き来していましたが、今はこの貴重な一艘が残るのみとなり、当時の生活文化を今に伝えています。

セクション4 船を読み解く:手漕ぎ船大解析

当館収蔵の手漕ぎ船は全長7.9m、幅2.08m、深さ0.79m、船首船尾ともに四角く、船首側がわずかに高くなっています。船底は平らで、安平で使われた船の中では中型の船体に分類されます。20世紀初頭に安平で作られたものだと推測されます。船体の構造は中国福建省沿岸一帯の伝統帆船の工法と類似しており、漢民族の造船技術を継承しているとみられます。そして、この船は安平林家一族の記憶を船上に留めています。もう一歩この船に近づいて、その構造や各部分と残された痕跡から、この船の物語を読み説いてみましょう。

セクション5 博物館が最終港:手漕ぎ船の新航路

隨四草地区の陸路が徐々に発達するにつれて、伝統的な水路を使った輸送は徐々に衰退していきます。林家の廻船事業もこれにより終わりを告げます。

1970年代後半になると、当館収蔵の手漕ぎ船は荷を積んで船出することもなくなり、安平塩水渓南岸の船着き場に繋がれたままとなり、ついには水底に沈んでしまいます。その後、再度人々の注目を集めたこの船は、歴史物語を語り継ぐという新しい任務を担い、新航路に就きました。

モノの生活史と私たちの物語

当館収蔵の一本マスト手漕ぎ船は台南安平の浅水域環境で生まれ、林家が三代にわたり帆を張り、竿をさし、塩を運びました。伝統的な水運事業の重要な手段であり、また人々と水上に張り巡らされた物流網をつなぐものでした。その後、地理と社会環境の変化によって、船は貨物の代わりにこの土地の歴史と物語、人々の記憶を載せることになりました。国立台湾博物館はこの船の波止場となり、現代に生きる「船の生活史」を語り続けます。

これまで、時代の変遷に連れ浮き沈みがあり、船が積んだ品物も変わり続けてきました。しかし、台湾人が水と共存してきた100年の歴史と経験はここに結晶し、人々の記憶と固く結びついています。そして、この手漕ぎ船のような船は台湾各地に存在し、人々のために貨物と、思い出と、歴史を読み解く手がかりを載せています。それは私達にとって感動と希望に等しいものです。

それぞれの船が持つ生活史は、私たち自身の物語でもあるのです。